マツコの知らない世界を見てトリマーと飼い主の考え方に物申す

ペット屋の息子です。

久しぶりにマツコの知らない世界を見てみたら、たまたま犬のカットの特集をやっていました。
ちょうどトリミングの事をネタにしようかと思っていたのでタイムリーだなーと思いじっくりと拝見させて頂きました。
出演していたカリスマトリマーの菊池さんはお顔とお名前は存じ上げていましたが、想像通りの方でしたね。美容師もされているというのもカットを見て納得しました。

一部の犬好きの方からは批判的な意見もありましたが、結局のところ犬に不満や負担が無く、飼い主が満足していれば口をはさむ問題ではありませんから、その点には賛同する気はありません。
しかしトリミングに対しての考え方は僕とは全く違うなとあらためて実感しました。
なので今回はトリミングについてお話したいと思います。

犬のトリミングとは人間が美容院に行くのとわけが違う

トリマーでもない僕が偉そうなことを言えませんが、多くの方の意識では

犬のトリミング=美容院や床屋に行く

と考えているようですが、これは僕からすれば全然違います。
どちらかというと

トリミング=エステ+美容院+健康診断

の方がまだ正しい気がします。

トリミングに対しての誤解は業界側にも責任がありますが、トリマーの考え方や意識の低さも問題です。
もっともそれを問題にしていない業界の体制が一番の原因でもあります。
卵が先か鶏が先かという問題でもありますが、しっかりと教育し優秀なトリマーを育てる事をおろそかにしていることは否めません。

トリマーが育たない原因の一つに労働に対する対価が低すぎるということも挙げられますが、ペットショップという立場から考えるに飼い主のトリミングの価値に対する意識の低さも大きく関係しています。

犬のトリミング料金と頻度

地域や店舗によって大分違いますが、静岡市内ではプードルのシャンプーカットで約5,000円~6,000円。内容からすればトリミングの料金は正直安すぎます。

どんなに優秀なトリマーでもトイプードルを最初から最後まで仕上げるには90分~120分。状態によっては180分程かかることもあります。
特に当店の様にバリカンを使わずハサミだけで仕上げるとなると120分はかかります。

またトリミングの頻度も、カット犬種で平均すると90日に1回、それ以外の犬種では120日1回程度です。
これはトリミングの重要性を飼い主やトリマーが理解していないせいでしょうが、トリミングの性質上せめて月に1回は行うべきだと思います。

当店ではサポートプランという契約で子犬や子猫の無料譲渡を行っていますが、これは毎月の犬や猫の毎月の維持管理をお店で行うという契約をした方に犬猫の生体代金を無料にするという試みです。

そのプランにご興味を持たれた方にお話をしますと、たいていの方が毎月トリミングが必要か?といったお話をされます。
確かにトイプードルやシュナウザーなどのカット犬種以外では、ご自宅でシャンプーができてしまったりするので、トリミング=美容院や床屋と思っている方には不要と思う事でしょう。
しかしお店側では、トリミングは美容という言い方をすることがあります。美容と考えれば少し意識が変わるかもしれません。

犬のトリミングの内容

トリミングの内容はシャンプーとカットがメインですが、もちろんそれだけではありません。
内容を順を追って説明しますと、人によって前後しますが、シャンプーの前には健康上の異常がないかどうかや、全身の被毛の状態をチェックし、足裏の余分な毛をバリカンでカットします。

絡みや毛玉は極力ブラッシングで取り除き、ひどい場合はカットしてしまいます。シャンプー前によく梳かしておかないと余計に絡んでしまいます。

それが済んだらシンクに移し肛門腺を絞りシャンプーします。

洗い流した後はトリートメントをし時間をおいてよくすすぎます。

タオルで水気をよくふき取りトリミングテーブルに移し、スリッカーブラシなどを使いドライヤーで乾かします。

乾いた後に爪を切り足回りや飾り毛などの伸びて邪魔になった毛をカットします。
後は飼い主の要望に合わせてトリミングしていきます。

最後に耳掃除をして終わりです。

内容からしても床屋や美容院で行うよりも細かいケアをしているのがわかると思います。頭のカットだけで済むわけではありません。

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犬のトリミングには健康状態の確認と改善の提案も含まれている

このことは飼い主だけでなくトリマーにもしっかりと理解してほしいことです。

美容とは健康の上に成り立つものです。

いくら優秀なトリマーでも個体の持つ素質以上には美しく仕上げることはできません。
カットの技術をいくら磨いたところで、被毛の状態が悪ければ美しく仕上げるのにも限界があります。

人間同様に犬の身体も食べ物で出来ていますし、外的要因やストレスなどで体調にも変化が起こります。皮膚や被毛の健康が損なわれることもありますから、トリミングの技術でそれを改善することは難しいでしょう。

トリミングにはそうした個体の健康状態を確認するといった意味合いも含まれています。

犬種によっても多少の差はありますが、トイプードルなどの長毛種では摂取した30%以上のたんぱく質が皮膚や被毛の健康維持に使われると言われています。

以前にお話ししたように、気温と体温の差が大きければカロリー消費量は増大します。
温度は換毛に直接の影響は与えませんが、寒さから身を守る為に密度や育成速度が変わることはあります。

そうした犬の変化に飼い主が気付かなければフードの給仕量が不足し、栄養のない毛が育ち、皮膚に潤いがなくなったりすることもあります。
優秀なトリマーはそうした変化にいち早く気づき、適切なトリミングを行いながら、最善の解決策をアドバイスできるでしょう。

トリマーは美容の為の健康管理のカウンセラー

さらには犬種毎のスタンダードに沿った骨格形成かはもちろん。四足歩行の動物として正しい姿勢が維持できるかどうかを確認したり、筋肉量や脂肪とのバランス、歯の健康チェック、耳の汚れ具合等から、どんな状態にありどう改善するべきかなどの提案をしなければなりません。

素質や運動環境にフードの質や与え方でも犬の健康は大きく変わります。
トリマーが行うべきなのはシャンプーやカットだけではなく、その行為を意味のあるものにするための最善の提案も含まれています。

前回のトリミングから今回のトリミングまでに、犬にどういった変化が起きてどんな要因が考えられるかをしっかりと考え、飼い主とコミュニケーションを取り、犬の健康を維持するためのベストを尽くすというのが正しいトリマーとしての在り方だと思います。

カリスマトリマーと呼ばれるべきなのはそういったトリマーであってほしいものです。

その為には大変な知識と経験が必要になります。
行動学や栄養学の知識から、観察力や想像力も必要です。相手が言葉の通じない動物だからこちらが歩み寄るしかありません。
またトリミングを望まない犬もいます。

犬のトリミングはしつけの確認や改善の為にも行うべき

飼育環境や飼い主との関係性が正しくなければ、犬は我慢が出来ません。反抗は当然の権利とばかりに吠えたてて牙をむきます。仕事上ケガはつき物ですから、ある程度の覚悟はしていますが、喜んで噛まれようというトリマーはいないでしょう。
ハサミが使えなくなれば仕事になりません。
またそれだけ嫌がる犬であれば心身にかかる負担は相当な物です。トリミングのストレスは体調を悪化させてしまいます。
トリミングはそうしたしつけの場でもあります。

家庭環境以外で他者と触れ合い、犬扱いされることを覚え我慢ができるようになることは重要なしつけです。

以前ケージで育てることの重要性でもお話ししましたが、トリミングならまだしも、手術や入院が必要な状況に陥った時に、それが犬にとって大きなストレスになれば、治療が無事に済んだとしても順調な回復が望めない事もあります。

トリミングはカットやシャンプーが必要かどうかという点だけではなく、しつけや健康上の問題がないかの確認の機会と考えましょう。

犬のトリミングは誰の為に行うのか?

番組を見て一番思ったことは、紹介されたトリミングはそのほとんどが犬の為のトリミングでは無いという事です。
もともとトリミングは、犬が快適に過ごせるよう環境や気候、使役用途に合わせて行うものだったはずです。トイプードルも元々は猟犬として活躍していましたから、スタンダードのカットにはその名残があります。

マズルを狩り込むのは、獲物を加えた時にその血で汚れない様に、水温の低い湖を泳ぐときに内臓を冷やさない様に胸部の毛を残し、低木の茂みを走り抜ける際に足を保護し、かつ動きやすいように関節の部分のみをカットする。そういった観点からあの独特のカットが生まれました。
そうした機能美が洗練され発展し、ショーのカットへと変わっていったのです。

そういった機能美や環境に適した被毛を活かす意味でもトリミングは必要な行為です。しかしそういう目的が忘れられたようなトリミングがもてはやされていますという紹介をしていました。
残念ながら多くのスタイルは犬が望んだものではなく、快適に過ごすための提案でもありません。飼い主の為の自己満足の為のスタイルです。
現在の飼育環境からすれば、スタンダードのカットが正しいとは言えませんが、せめて犬の為のカットという点をもっと重要視してもらいたいものです。

犬のカットスタイルと人間のヘアスタイルは大きく違います。その点を飼い主の方に理解してもらうのもトリマーの務めではないでしょうか。

まとめ

僕はペット業界には20年いますが実家以外では働いたことが無かったので、こうした考えは当然だと思っていました。
ドッグショーの世界でも、犬のコンディションをベストに保つためのトリミングには、こうした日々の管理や考えは必須だからです。
しかしそういったことが当たり前じゃないことにある日気付きました。

静岡にも大手のペットチェーンのショップが出来ましたが、犬に対する扱いは共感できるものではありませんでした。
また近年のペットブームでトイプードルの人気が再燃、飼育頭数が増え、いろんなカットを望む飼い主の為にトイプードルのヘアカタログを購入した時も衝撃を覚えました。

犬を取り巻く環境は改善されていくものの、一方で新たな問題も産んでいます。
それを個人の力で改善することは無理かもしれませんが、少なくとも自分が関わった犬や猫には幸せな環境を与えてあげたいと思います。
自分の考えが正しいかどうかはわかりませんが、出来ることはまだあるような気がします。
今日もお読み頂きありがとうございました。

次回はプードルのヘアカタログを購入した話をしましょう。