フード 勝手な考察

犬に肉を与えるなら生の方が消化が良いって迷信を打ち崩す話

投稿日:2017年7月24日 更新日:

ペット屋の息子です。

肉は生の方が消化が良いなんて、どこの誰が何を根拠にそう言っているのかを聞いてみたいものですが、人は時々間違った情報を信じ込んでいます。特にそれが自分で検証できない事や専門知識であれば、抵抗なく受け入れてしまうようです。

犬や猫の情報も正しいか正しくないかを実証するのは難しく、特に栄養学はどこかの誰かがそれらしいことを言えば「そうなんだー」と納得してしまう人は多いでしょうね。

酵素についても誤解が多いようですがとりあえず本日は生肉は消化に良いという誤解を解く話をしましょう。

犬に生肉を与えるより焼いた肉の方が消化に良く安全な理由とは?

野生動物は生肉を食べているし、犬の外見上の特徴や歯の構造からしても変わりはないので生肉の方が消化に良いと思われているようですが、これは事実ではありません。

生の食材の方が栄養価が高く加熱による栄養損失があるのは事実ですが、「タンパク質は加熱すると変性するから、消化吸収は生肉の方が良い」というのは間違いです。
タンパク質は加熱することで消化が容易になりますし、加熱によるタンパク質の損失は起こらないと考えられます。

生肉には犬にとって危険なバクテリアがいっぱい!

生肉を摂取することで細菌や寄生虫による食中毒の危険があります。
原因となる細菌は、大腸菌・サルモネラ菌やカンピロバクター、人間でも命を落とす危険のあるO-157に腸管出血性大腸菌など。人畜共通感染症菌がほとんどですので、犬が食中毒になれば飼い主にも危険が及ぶことも考えられます。

野生動物に比べ腸内細菌の種類や数も少ない犬には生食用の肉以外を与えることはおススメできませんし、生肉を食べなれていないので嘔吐や下痢を起こす可能性もあります。

特に高温多湿の今の時期では細菌の繁殖スピードが速い上に、犬の体調も崩しやすいので負担になる可能性は高いでしょう。

 タンパク質はアミノ酸が結合した構造体!

タンパク質は約20種類のアミノ酸が一定の配列でつながった高分子の栄養物質でO(酸素)H(水素)C(炭素)N(窒素)を含み、配列の順序でその働きや役割が変わります。

アミノ酸が2つ結合する時に1つの水の分子(H²O)が外れて起こる「ペプチド結合」はその結合数で呼び名が変わりますが、タンパク質は多数のアミノ酸が結合した「ポリペプチド」で構成されています。

  • アミノ酸が2つ結合=ジペプチド
  • アミノ酸が3つ結合=トリペプチド
  • アミノ酸が複数個結合=オリゴペプチド
  • アミノ酸が多数結合=ポリペプチド

タンパク質は約20種のアミノ酸が結合してできる一つのポリペプチドでできた物や、ポリペプチドが複数集まってできたものなど、その数約10万種類にも及びます。

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アミノ酸の構造をわかりやすく説明してみよう

アミノ酸が連なった鎖のような状態を「一次構造」と呼び、それが水素結合と呼ばれる緩い結合で集まり、規則的ならせん構造やジグザグ構造を形成し「二次構造」を作り出します。

2次構造のらせん構造やジグザグ構造を含むポリペプチドの鎖の立体構造が「三次構造」で、それら(複数のポリペプチドやタンパク質サブユニット)が複数で構成されたものを「四次構造」と言います。

調理の熱が消化を容易にする!

タンパク質の特性はこの立体構造体によって決まっていますから、熱やアルカリ、酸それに圧力などの影響によってこの構造が崩れるとその働きを失います。
タンパク質はアミノ酸にまで分解され腸管で吸収され始めて栄養となり、体を構成するのに必要なタンパク質を合成する為の構成要素として利用されます。

つまり要約すれば、生肉では噛む「圧力」と胃の「酸」で水素結合を断ち切り一次構造を露出しますが、加熱処理すれば「熱」による変性が事前に加わる為に消化が容易になるのです。

ちなみに加熱することで脂肪が減ることはありますが、タンパク質は熱による変性で二次構造以上の高次構造が失われてもアミノ酸の配列が変化することはありません。あくまでもタンパク質としての働きが失われるだけです。

タンパク質としての働きを失うことを「失活」と言いますが、これはけして悪い事ではありません。たんぱく質から栄養として摂取するべきなのはアミノ酸です。

犬は生肉から酵素を得るから生食を推奨するという誤解について

例えば酵素はタンパク質が基になって作られていますが、酵素自体を外部から吸収して利用することはほぼ不可能です。
多くのサイトで取り上げられているドッグフードの欠点に消化酵素が含まれていないという点が挙げられますが、ほとんどの酵素は熱や酸に弱く、生の食材を摂取してもその働きを活かすことはできません。
ですから生食のメリットに「酵素の摂取が可能」というのは間違いなのです。

ちなみにタンパク質分解酵素の一つでもあるヘプシンは胃の中で働くため胃酸でも失活はしません。

まとめ

生食には確かにメリットがありますが、そのことを多くの人は誤解しています。
野生動物でも加熱調理した食事に切り替えればエネルギー効率が良くなり太ることが分かっています。消化に使うエネルギーが減るからです。

人間でも動物でも、食事は栄養を摂取する為の行為であることは変わりありません。ですから

何を食べるかではなく何を得るために食べるかです。

カルシウムが足りないから牛乳を飲む、煮干しを食べる。ビタミンCはレモンから。ワインにはポリフェノールが多い。

それが理解できるなら原材料そのものが何であろうと栄養が摂取できることの方が大事なのは分かると思うのですが、なぜか惑わされてしまうようですね。犬や猫の為の栄養学がもう少し飼い主に理解されれば病気のリスクも減ると思います。

本日もお付き合い頂きありがとうございました。

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